夏休みの宿題:“ピアリング戦記” 感想文

先週末、久々に出社したところ、部門長より「夏休みの宿題」。部署の本棚に50冊ほどの “ピアリング戦記” のプレゼントがどさっと。曰く「夏休みの宿題として進呈するから、興味がある人は、これを読んで勉強しなさい」と

僕自身、20代の頃は、NTT東でフレッツ/ひかり電話のNW設計・開発に携わっていたこともあり、ルーティング技術には親近感と興味を持っていて。ある程度の知識と経験値はもっていつつも、インターネットの花形(と個人的に思っている)BGPについては、iBGPについてはやっていたものの eBGP については、タッチしたことがなく。

僕は、やはりインターネットエンジニアとは言えないんだようなぁ・・・と鬱々としつつ、BGPの現場では一体何がおきているんだろう???と興味が尽きない中、この20年ほど、ある種全く関係のない Web 系(html5とかWebRTCとか)の仕事に注力していました(新しもの好きの性分が、興味を勝っていた感じ)

で、この本が出版されたことを知り、あきみちさんの本だし、面白いのは間違いない。読みたいなー買おうかなーと思っていた小松の目の前に”どさっ”と太っ腹の部門長から進呈を受けたわけです。

それは、ありがたく頂戴して、読むでしょう・・・・

ということで、週末で読了いたしました。

色々な感想、持ちました。どろどろした部分も含め、インターネットがインターネットとして成長し、空気のように利用されている影で、いかに技術者が頑張って、交渉し、よりよい環境を形成していこうとしてきたのか。1999年頃に Gbitベースのスイッチが・・・ってことは、紫箱使ってたのかな?と、軽くインターネット老人会に片足を突っ込んでいる小松は妄想にふけりつつ、まさに現場で何が起こったかが垣間見える、良書だなーと率直に感じました。さすが、あきみちさん・・・

個人的に、特に面白いなぁと感じたのは、2009年10月のNANOG 47 で発表された、”Tier-1 以外の Google などのコンテンツ事業者”が、全トラフィックの30% を占めたこと。

この辺りを契機として、 Tier-1からのトランジットを上位層としたヒエラルキー、ある種中央集権的なインターネット構造から、各AS間でPeerを張っていく、フラットな構造への遷移。north-south から east-westへの構造変化により、ピアリングをベースとしたフラットな構造やルールが具現化していくわけです。

あらーく今風に言うと、2009年に転機が訪れ、中央集権型のトランジットから、自律分散型のピアリングへ移行と言えるかも

これをWebの歴史に置き換えると、2009年に、”Google I/O” を契機として、HTML5が登場。Webの表現力が飛躍的に伸びていく中、GAFAや Netflixといったハイパージャイアンツの躍進が進み、それ以前では考えられなかった様々なサービスを提供。ビデオを中心としたトラフィックの急増とともに、コンテンツの観点では中央集権的な力を持つにいたっている。

こう見ると、2009年からの10年余りで

  • BGP:中央集権 -> 分散
  • Web:分散 -> 中央集権

という逆のことが起こっているとも取れる。とはいえ、ピアリングが完全な分散になっているかというとそうでもなく、トラフィックバランス的には、Tier-1のレイヤにGAFAなどの強いASが現れ、それらとピアリング結ばれているという構図。なので上の2つは別に矛盾はしていない(BGPの絵のアンバランスな所に、Webの構造がすっぽり入る感じの絵になりそう)

こういう話をしていると、「じゃぁ、さらに分散化を進めるのが “Web3” ですよ」とか言い出す輩がでてきそうな気がしちゃうけど。僕はそうは思わない。

むしろ分散化を生み出していくのは Uber や Slack, Air B&B, Zoom, Teslaとかメタバースとか。この辺りが、まさに east-westのトラフィックパターンを形作り、より分散された構造をつくりあげていくんじゃないかなーと個人的には考えています(クラスターの強弱は、そこそこあるだろうなぁと思いつつ)

上にあげたユースケースは、程度の差はあれ、モバイルベースのコミュニケーションを基底としているところがあり、 east — west 成分が高い。

Web3 で言われているところの技術は上記サービスの要素技術ってかんじじゃないかなぁと(注釈しておきますが、小松はNFTとか、各要素技術には未来を感じています。全てをひっくり返すほどのもんではないだろっていうのが一番引っかかっている所。とりあえず、あのバズワードから “Web” という3語を消してほしい。

こういう意見を言うところが、小松らしいなぁと自分でも思いますが、Webとインターネットは表裏一体なわけで、互いに濃淡有りつつも相互作用することで、今後の Web/インターネットは進展していくんだろうなと。テクニカルには、QUICががらっと色んなものを変えそうな雰囲気もプンプン感じますし ;)

だらだらと書いてしまいましたが、歴史を知るという意味でももちろんですし、それを踏まえて、今後どう進めていくべきか?について深く考えさせていただけることができました。筆者のあきみちさん・企画、インタビューに携わった各位に感謝させていただきます。

そして、「夏休みの宿題」として進呈いただきました山下部門長にも謝辞を伝え、本稿を締めたいと思います。

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小松健作(kensaku komatsu)
小松健作(kensaku komatsu)

Written by 小松健作(kensaku komatsu)

映像コミュニケーション系のエンジニア。70, 80年代洋楽大好きなアラフィフおっさんです。Web系の技術やサービスが大好きで、以前は Google Developer Expert や Microsoft Valuable Professionalなんかもしてました。勤務先と、このブログは全く無関係です。

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